商品ネーミングの決め方と覚えられる名前の条件
商品ネーミングの会議で最後まで残るのは、たいてい短く発音しやすい案です。ただ、思い出してもらえない名前は失敗作ではなく、角の取れた案であることがほとんどでした。
選ぶ物差しを「言いやすさ」から「引っかかるかどうか」に付け替えるだけで、候補の見え方は変わります。そして最後は、紙の上ではなく声に出して確かめます。
記憶に残らないのは、出来の悪い名前より当たり障りのない名前
ある飲食店の弁当のネーミング会議は、二つの候補まで絞られたところで止まりました。一方は短く発音しやすい案、他方は文字数が多く、口の回りにくい案です。
常識的には短いほうが有利です。声にしやすく、書きやすく、記憶にも残りやすい。それでも決まったのは長いほうでした。判断の根拠も明確です。
「とにかくもらった人に違和感を持ってほしいわけやな、なにこれっていうね」
発音のしやすさではなく、受け取った人の手を止めることを取りにいっている。狙いが先に置かれていると、迷う時間が短くなります。
「なんかありそうだよね」と言われた案は疑う
短いほうの案に付いた評価が、これでした。
「なんかありそうだよね」
一見すると肯定の言葉です。耳ざわりがよく、引っかかりがなく、どこかで見た覚えがあるという安心につながる。ただ裏返せば、思い出すための手がかりが一つもないということでもあります。
長いほうへの評価は「聞いたことないから違和感がある」。発音しにくさが、そのまま引っかかりとして働いています。
会議で誰も反対しなかった案が通ったとき、それは同時に、誰の記憶にも残らない案かもしれません。反対意見が出ないことと、選ばれることは別の話です。
迷ったら、名前そのものの出来ではなく、受け取った人が誰かに話すかどうかで見ます。話す理由がある名前は、説明されなくても広がっていきます。
決める前に、必ず声に出して耳で確認する
別の食品案件の打ち合わせでも、同じやり方で候補を絞っていました。ある呼び方を口にしたとき、こう出たんです。
「なんか薬っぽいかもね」
「響きが大丈夫かな」
文字で追っている限り、意味は通っています。声にすると、その言葉が相手の耳にどう届くかが初めて見えます。このときは、若い主婦層に聞こえたときの印象を基準にしていました。
同じ手順で、コピーも直しています。
「簡単・安心・美味しいお出汁」
これが、こうなりました。
「安心で簡単に美味しくなるお出汁」
単語を並べた状態から、筋の通った一文へ変わりました。目で追わせるのではなく、声で伝えるための修正です。
名前もコピーも、店頭やSNSでは声や耳を通って伝わっていきます。会議室のスクリーンで確認しただけでは、その通り道を試したことになりません。
名前を決める前のチェックリスト
候補がそろったら、決める前に次を確認します。
- 声に出して読んだとき、耳にどう入るか
- 届けたい人の年齢や生活に、その響きが合っているか
- 「なんかありそう」で済まされる名前になっていないか
- 引っかかりが、悪い意味の引っかかりになっていないか
- 表記した状態でも、名前として成立しているか
パッケージは、名前と同じ狙いで揃える
この会議では、パッケージの向かう先も同時に固めています。
「かっこいいとかじゃなくていいんだよ、かわいいとか素敵とかじゃなくていい」
決まったのは、看板に出している実写の人物写真を、手を加えずに載せることでした。キャラクターに置き換える案も出ましたが見送りになり、「最初は1年くらいはあのままいっちゃって」となりました。
整えるほど見栄えは上がりますが、同時に他と似てきます。名前で引っかかりを取りにいくなら、外観も同じ方向にそろえる。ここがずれていると、狙いが互いを打ち消します。名前で足を止めてもらっても、見た目がよくある形なら、そのまま通り過ぎられます。
もう一点、この打ち合わせで動いたのが表示の大きさでした。パッケージの端に小さく置かれていた表示を指して「これって大きく入れちゃダメなんですかね」と聞いたところ、返ってきたのは「大きく入れた方が一番伝わりやすい」。規則で決まっていると信じ込んでいたものが、確かめてみればただの前例だった。何年も小さいまま置かれていた一行が、いちばん伝わる一行だったりします。新しいコピーを考える前に、すでに載っている情報の扱いを見直す。効き目は思ったより大きいです。
攻める前に、止まらないための線を引いておく
違和感を取りにいく方針は、無防備に進めると事故ります。そこで、先にこう伝えておきます。
「広告規制じゃないですけど、厳しいものがあったら、こっちの方がいいですみたいなのを送ります」
取り締まるための確認ではなく、前に進めるための確認です。越えてはいけない位置が最初に見えていれば、後から差し戻されて会議が止まることもありません。
当たり障りのない案が通りやすいのは、参加者が保身に走っているからではありません。どこから先が危ないのか、誰にも見えていないからです。境界が示されていれば、そこに届くまでは堂々と踏み込めます。
まとめ
- 思い出してもらえない名前は、失敗作ではなく当たり障りのない案であることが多い
- 「なんかありそう」は褒め言葉ではなく、埋もれる合図として扱う
- 決める前に必ず声に出し、届けたい相手の耳で確かめる
D-thermoは、ネーミングやパッケージ、販促物の企画から制作までを一緒に進めている会社です。候補が絞りきれない場面では、決め方の基準づくりからご相談を受けています。